







商品企画本部 プラットフォームグループ
飛田 裕貴YUKI TOBITA
LAVIE Note NEXTのプロジェクト責任者として企画から生産までをトータルプロデュース。NEC製品の開発実績多数。

デザイン&ユーザエクスペリエンス
Advisory Industrial Designer
前村 浩三KOZO MAEMURA
LAVIE Note NEXTのデザイン責任者としてデザイン・設計全般を担当。NEC LAVIEシリーズのデザインに幅広く携わる。


私たちが目指したのは、全く新しいノートパソコンの開発でした。15インチ、メインの用途で使えるオールインワンのノートパソコンというのは最も売れる市場なのですが、なぜかワクワク感というものが無い。年を重ねるごとにデザインは少しづつ進化しているものの、ちょっと遠目から見るとそこまで大きな変化が感じられない。つまり、ほとんど変わっていない。そこをドラスティックにワクワクするものにしたい、というのがプロジェクトのスタートでした。
とにかく今までと全く違うもの、前モデルとの違いはもちろんですが、良い意味で「NECっぽくない」というものが作りたかった。もっと言えばNECとしてこれまで継承してやってきたものを敢えて壊したいなと。
そうすると、まずはノートパソコンというものを再定義するところから始めなければなりませんでした。すべてを一度リセットして、ゼロからスタートすることになったのです。
まず最初に開発方針としてこだわった一番大きなポイントが、デザインです。ワクワク感をつくるには、ひと目で違いが分かるデザインにする必要がある。
お客様が店頭に行った時に「あれ、今までとはぜんぜん違うものがあるぞ。え、これノートパソコンなの? こんなコンパクトなのに15インチなんだ」という反応を作らなければならないということですね。
そしてもう一つの大きなポイントが、速さ。これは結果的に「NEXT」の最大の特長となったのですが、実際に使った時に実感できる速さが欲しかった。使っていただいた時に、「今まで使っていたものは、いったい何だったのだろう」と。だからスペックはとにかく最新・最高のものを詰め込みました。
そして最後のポイントが、心地よさです。ここはNECが前々から目指しているところでもありますが、使っている心地よさを実感できるユーザエクスペリエンスもやはり無いといけない。「見た目はこんなに変わっても、やっぱりNECのパソコンが使いやすいよね」という風に思ってもらいたいなと。
なので、「デザイン」「速さ」「心地よさ」。この3つを重点ポイントとして開発を進めていきました。
これまでは結構長い期間、「光沢感のある美しさ」を思考してデザインしてきました。それはパソコンが「マシン」であり、ある意味緊張感を持って接する相手だったから。嫌でも目がいくものとして飾り立ててあげる必要があった。
しかし今はどうでしょう、パソコンはもう特別な存在ではなくなりました。特にノートパソコンの普及によって各家庭に浸透し、リビングや食卓に置かれている光景も当たり前になりました。
つまり、これからはああだこうだと主張するデザインではなくて、日頃、日常的にあるもの、使うものとして馴染むデザイン、溶け込むデザインというスタンスに変えていく必要があると考えました。
パソコンの存在感ではなくて、インテリアのような、美しいけれど日常に溶け込むもの。インテリアだから、10年20年経っても古くならない、違和感のないデザイン、そういうものを目指す必要がありました。
では、日常に溶け込む、インテリアのような、古くならないデザインとはどういうものなのか。
一つだけ明確なのはシンプルである必要があるということでした。シンプルであるということは「余計なもの」「華美過剰なもの」が無いということ。つまりそれだけ洗練されているということです。だから古くなりにくい。
そしてもう一つ考えたのが、機械、機器ではなくて、アナログ的な昔からあるものに見えるようにならないかということです。ノートパソコンは使っていない時は閉じられていますから、その状態で空間に溶け込む必要がある。
そこでイメージしたのが「紙の束」です。言うなれば積層された紙。
例えばA4のコピー用紙が積み重なった状態の紙の束。あるいは本でもいい。それであれば、テーブルや机の上に置いてあっても自然で違和感が無いし、何よりとてもシンプルです。
そしてそのノートパソコンを開いて目にするのはディスプレイですよね。作業中はずっとそのディスプレイを見ていることになる。ディスプレイに関しても、日常に溶け込む、という考え方で「窓」をイメージしました。
閉じている姿は「紙の束」で、画面は「窓」。日常的で、普遍的で、シンプルです。つまり、紙が置いてあって、それを広げると窓がある、みたいな。そういう自然な感じ、自然な体験をつくることを目指しました。
具体的なデザインにおいても、そのイメージをなるべく崩さないようにしました。例えば全体のフォルムとして、通常は薄く見せるために端の角を落としたりするのですが、今回は必要以上に薄く見せようとか、わざわざ部分的にカットして、「かっこいいだろう」「薄いだろう」という、わざとらしい演出はしたくありませんでした。あくまで「紙の束」のような自然な、さりげない存在にしたかったので、そういうところは自然体で作りたかった。自然体な紙ベースに、プロポーションというものを活かしたかったのです。
開けたときも、直線とフラットな面を基調としていたので、曲線や三次的曲面は使いたくなかった。それが全体的な雰囲気、バランスを崩さない一因にもなっていると思います。
これは結果的に、NECの伝統的な構成でもある二枚の薄い板が重なっているというイメージを、実は「NEXT」が一番端的に表現できている事につながったと思います。
色や塗装においても、「紙の束」という自然体を貫くために、新たな試みとしてマットなデザインにして、落ち着いた質感を出すことを目指しました。
実は、マット塗装というのは高級感や質感を出すのがとても難しいのです。色によってはマットだと「ベタッ」となってしまい高級感が損なわれるので、理想の色味を出すのに何度もトライアンドエラーを繰り返しました。
本当にちょっとした配合で、例えば0.01の配分で色は変わります。モックアップで職人さんが塗装したときは上手くいっても、いざ機械で量産するときに出なくなったり、温度や湿度の影響で微妙に変わったりするので最後の最後まで調整が必要でした。そこは本当に苦労しましたね。
だからもうノートパソコンというより、ノートですよね。ただし、高級ノート。
肩の力は抜けているんですけど、落ち着いた質感というものは出したいなと。
配色もハイではなくローコントラストなツートーンにして落ち着きを持たせました。それも今回が初めての試みですね。


ノートパソコンを再定義することからスタートした「NEXT」の開発にあたり、ノートパソコンに対する使う人の感覚も変える必要があると考えました。
例えば、スマートフォン。使いたい時にすぐに使えます。そもそもスマホは思いついたとき、使おうと思った時にすぐに立ち上がりますよね。あまりにもすぐに立ち上がるので「起動」という感覚さえ無い方がほとんどでしょう。
だけども一般的なパソコンはそうはいかない。やはり「起動させよう」という感覚がある訳です。だからパソコンに向かうとき、使いたいときには「よし、やるぞ!」という感じが必要で、気軽さ、手軽さが無い。それをパソコンがクリアできれば、最近多いと言われるスマホしか使っていない若者もパソコンをもっと使うようになるかもしれません。
そこでその手軽さを目指し、「NEXT」では電源ボタンと指紋認証ログインを同じ位置に設定しました。指紋認証ですからサインイン時にパスワードを打つ必要もありません。そうすればユーザはパソコンを使う際は同じ場所に指を当てればいい訳で、ワンステップで起動ができるようになります。ただしこの指紋認証兼電源ボタンも、シンプルさを追求するデザインに馴染むようにするのは大変でした。
「NEXT」は、パソコンを開いたときの感覚や体験も変える必要がありました。
閉じた状態が「紙の束」で、開いて目に入る液晶ディスプレイのイメージが「窓」。しかも、その「窓」は見ていてもずっと飽きない、疲れない「窓」。「窓」の向こうに見える風景に入り込める、没入感と集中力をより向上させる「窓」をつくりたかった。
そこで採用したのがフラットデザインと狭額縁ディスプレイです。
狭額縁ディスプレイには二つの利点がある。画面がシンプルでより集中力を高めてくれるという点と、画面サイズをキープしたまま、筐体そのもののサイズをコンパクトにできるという点です。
しかしこれもいざ実現させようとなると非常に様々なハードルがありました。どうしてもシンプルな「窓」にするために、画面のガラスを縁まで持っていきたい。そこは譲れなかった訳です。しかもこれ、画面の下の部分でガラスを終わらせるのではなく、奥までつなげている。実際に目が届く範囲ではないのですが、所謂こだわりですね。ものづくりとしてのこだわりなのですが、そういう細かい部分にこだわらないと、製品としての完成度を上げていけない。
ただしそういう事を言っていると、実際の設計も、より難しくなる。普通は四角に切ってしまったほうがラクなのです。けれども我々はラクな道を絶対に選ばなかった。角度によっては力がかかって画面が割れるとか、普通は誰もやりたがらないのですが、その辺は押し通しました。
それと、狭額縁だと強度が弱くなってしまうという問題もある。なので、これまでは入れていなかった補強部材を中に入れなくてはならなくなったのですが、ただ入れるとなると、厚みに影響してしまう。開発から何ミリ欲しいという要望も、他の部材を使えないかとか、構造自体を変えられないかなどのせめぎ合いをしてなんとか狭額縁をキープさせました。
狭額縁以外の部分においても、実際の見た目であきらかにシンプルになっているもの、コンパクトなものを目指しました。
だから、従来の15インチよりも一回り小さくなっている。とにかくシンプルに。シンプルであることは美しいのです。「引き算の美学」を徹底的に追求しました。だからキーボード以外、電源ボタンなどもなにもない。もちろんサイドにはあるのですが。ユーザの方は、画面とキーボードとパッドだけがあればいいので、まさにそれだけがある状態です。
また、いつもはNECのロゴがセンターにあるのですが、「NEXT」ではその場所も載せ方も全く変えてしまいました。より一層画面への没入感を高め、集中してもらえるようにと、色の無い彫刻表現にした訳です。裏話をすると、最初のモックアップの段階では、まだロゴはあったのですが、モックアップのロゴ部分に黒いテープを貼って、無い方が美しいということになり、取ることにしたのです。
NECとLAVIEの表現の関係性も変えました。LAVIEのところは彫刻で光沢のあるパーツを入れて、ブランド「LAVIE」の方を上位に我々は考えているということを示したかった。 社名でなくブランド名を目立たせたのは初めてです。
実は「NEXT」には根本的な課題がありました。それは、シンプル化、コンパクト化にこだわりながらどうやって多機能を維持するのか、という問題です。
日本のノートパソコン市場のニーズで一番高いのが「安心感」です。これを買っておけばなんでもできるという安心感。つまり、「オールインワン」である必要がある。
「オールインワン」とは、基本的な機能が全部揃っている状態のことを言っているのですが、基本的な機能とは、例えばODD(光学ドライブ)、大容量のHDD、テンキー、USBポートといったものです。それらが全部揃っている状態が求められている。「オールインワン」で、いわゆる“全部盛り”という奴です。“全部盛り”なんだけど、シンプルにしたいしコンパクトにしたい。根本的に矛盾していますよね。
ただし我々は諦めなかった。普通であればどちらかを諦めざるを得ませんが、ユーザ視点、ユーザ第一で考えると、何かを取る、失くすという選択肢はありませんでした。
例えば、仮にODDを排除すればより薄くなるので、他社の15インチノートパソコンなどで、見た目がこれより薄くなっているものは結構あると思います。
でも、やはり排除はしたくない。それはユーザの安心感を損なうことになるからです。
まだありますよ。今回の「NEXT」は速さを追求したいからSSDを入れているのですが、さらに1TBのHDDも入れている。今はSSDだけのモデルもある中で、なぜまた、わざわざそんな矛盾するようなことをするのか。大容量データが確保できることで、さらに安心してもらえるからです。
「NEXT」はSDカードもちゃんと入るし、HDMIもつながる。決して安い買い物ではないので、一度買ったら長く使ってもらうことになるでしょう。
だから、これを買っておけばこの先も安心、後で何かができないという状態にはならないようにしたかった。
ではこの矛盾をどうやってクリアしていくか。正直非常に苦労しました。
先ほどの「オールインワン」、いわゆる“全部盛り”というのをやろうとすると、当然ですが、どうしてもシステム側のサイズが大きくなってしまう。すると、上のLCD(ディスプレイ)側と下のシステム側は同じ幅でつくる都合上、システム側が大きくなると自動的に狭額縁も失われて、従来のPCに戻ってしまうという問題が出てきます。だから下側、つまりシステム側をどれだけコンパクトにできるかというのが至上命題となる訳です。
設計する上では、すべての機能をそれこそパズルのように、どのようにしてこの限られたサイズに収めるかという中で、さらにユーザが使いやすいレイアウトというものも考慮しなければならない。
例えば、ノートパソコンを使うユーザは電源アダプターを挿しっぱなしで使う場合が多いので、その位置はなるべく奥側で手に干渉しないように配置したほうがいい、とか。排熱口の位置は、マウスを握る右手に熱風が当たらないように、左側に配置したほうがいい、とか。
それと、横から見ていただくと分かりやすいのですが、少し浮いているのがお分かりになるかと思います。このように若干角度を付けることによって、空気の流れを作っているのです。そうすることで、効率的に空気の出し入れが行えるので、パソコンに熱がこもることなく、CPUを最大限稼働させることができます。そうすることで速さを存分に体感してもらえますし、この角度が絶妙にタイピングしやすく、心地よさを実感することもできる。
その上でODDやHDDの場所を決めたり、もうコンマミリ単位で切り詰めながらこのサイズに収めていきました。中を開けてみると分かるのですが、とにかく密度が濃く、ギリギリまでレイアウトされています。また、収めるために、テンキーなどのボタンまでデザインしなおしました。シンプルにする、コンパクトにするという事と、オールインワンで使いやすさも維持するという事を両立させるのは本当に大変でした。


「NEXT」では、キーボードまでもを、ユーザビリティとデザインの観点から再考しました。
よりシンプルに、従来の形状を整え、デザイン観点から美しく枠の中に収めました。本当はキーボード専門部隊がいるのですが、こちらの要望を割りと飲み込んでくれた上にレイアウトのアドバイスもくれたりと、いい形でコミュニケーションをとれてトラブルなく開発ができました。
従来の打ちやすさ、位置関係はキープして設計していますし、ノートパソコンのキーストロークとキーピッチも維持しています。モバイルですと、キーとキーの間が狭くなって打ちづらいこともありますが、「NEXT」はユーザが窮屈さを感じないようなレイアウトになっています。一番触るところだから、ダイレクトにユーザに伝わるので、使いやすさには徹底的にこだわりました。
グラフィックも変えました。これまでは3色で表現していたのですが、今回はモノトーンでトーンを整えつつ、色の濃淡で機能を表現しています。それも「NEXT」が初ですね。
つまり、変えるところは思い切って変えたけど、いいところ、変えないところは変えない、ということにもこだわったのです。
打鍵音、キーボードを押した時の音なのですが、これは従来の半分になっています。デシベル的には従来モデルが26デシベルで、「NEXT」は20デシベルになったのですが、6デシベルの差は、人間が感じる音としては半分になっているものなのです。
それは、例えば人間が話している声の音と葉が擦れ合うの音ほどの差があります。なので、静かに心地良くキー操作を行なっていただけます。開発者が、音が出ないように内部構造を変えて、可動のブレを抑える工夫を行いました。
あとは、どのキーも同じ比重で押せる、同じ強さで押せるということにも配慮しました。軽やかに打てることに加え、全てのユーザが5本指で打つとも限らないので全体の押し具合を統一しています。文字の打ち損じを防ぎ、キーのどこを押しても打ち込まれることで快適度、心地よさへとつながります。疲れ等も出にくくなりますし、打ち直し等も無いので作業をずっと続けやすくなるのです。
キートップには、UVコーティングというものを施しています。コーティング自体は従来からあるのですが、今回はさらに摩耗への耐性が高いコーティングをしています。それによって、キーの印字が長い間美しいままで、指紋もつきにくいので綺麗に使っていただけます。
パソコンは平均でも5〜6年はお持ちいただいているようなので、最後まで長く快適に使っていただきたいと思っています。試験でも徹底的な摩耗試験を行って、効果を確認済みです。従来のものは、ずっと使っていくとどうしても剥がれるのですが、今回のものは違いますね。ずっと綺麗に使っていただけるようになっています。


ユーザ調査の中で購入時に重視するポイントを聞くと必ず上位にくるものに、「速さ」というものがあります。基本的には、「起動の速さ」だったり、「処理能力の速さ」、というところなのですが、「NEXT」はまさにこの「速さ」が最大の強みでもあります。「NEXT」では、とにかくハイスペックであることにもこだわりました。これはNECの上位機種としてのこだわりでもあります。
CPUは最新の第8世代、性能でいうと、パフォーマンスは40%向上しています。最新のハイスペックCPUを使っていますので処理能力は申し分ありません。
それに加え、SSDは内部の接続方式にPCIe(PClエクスプレス)を使ったSSDを採用しているので、よく使われるSATA接続のものと比べ約5倍の速さを持っています。その接続方式は、15インチノートで採用したのは「NEXT」が初めてです。
あとは大容量のHDD。HDDとSSDをこのコンパクトさで共存させることを実現させています。そしてブルーレイに対応しているODD。
本当に全部が揃っている、まさに“全部盛り”になっています。
また、低電圧のCPUを使っていますので、熱が出づらく、ファンの稼働率が抑えられるため、静かに快適に使える。 音が抑えられ、快適で、それが結果的に「速さ」にもつながっています。
「NEXT」は、 “全部盛り”ながらコンパクト化と高性能の処理をも実現しています。これによって例えばExcelやPowerPointを使った複雑な作業がサクサクできるようになったり、動画編集や高画質動画の再生も高速でできるようになります。
これは今のノートパソコンにしてはかなり凄い事です。従来デスクトップを使っていた方や、クリエイティブな仕事をしている人でも快適に使っていただくことができる。そう、クリエイターの方たちにも問題なく使っていただけると思います。複数のプログラムを同時に処理できるから、それは快適性や仕事や作業スピードとしての「速さ」にもつながります。
あとは、スマートフォンだけ使っていてパソコンは普段使わないような若い方達にも使っていただきたいですね。そういう方にデザインから入っていただければ嬉しいです。そして実際に使っていただいて、「速くて、快適で、便利だな」と思って貰えれば嬉しい。
我々はユーザ視点が一番大事だと思っています。不満だったり、もっとこうなったらいいなというものに対して、「これが解決するパソコンです」というものをこれからも作っていきたいと考えています。


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