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Chapter 03

どれくらい気を失っていたのだろうか。アヤトは目を覚ますと、古い雑居ビルの一室らしい作業部屋のソファで横になっていた。使い込まれた作業台とバイクだけという殺風景な部屋。汚れた窓から外の彩色豊かなネオンやサイネージの光が漏れている。
「あ、起きてる」
暗がりから現れたのは、ユーコだった。
「君は…ユーコ?」
思わず声がかすれるアヤト。そしてユーコの背後の作業台には、青く輝く美しいギアが置かれていた。
「その机の上にあるギアって…」
「知りたい?VEGAのこと」
初めて見るVEGA。アヤトは吸い込まれそうな鏡面のボディに思わず息を呑み、まじまじと見つめていた。
「これが…」
手を伸ばしたアヤトの言葉に呼応するようにボウッとVEGAの背面ロゴが光る。
「この子が世に出れば、世界は変わる。CTだけでなく、日本全体がクリエイティブな人々で溢れ、みんなが輝ける時代が来る。それが、おじいさまと私の夢」
作業机の上には、日本初のPCである『PC-8001』を囲んだ開発者達の色あせた写真が貼ってあった。その真ん中にいるリーダーこそがユーコの祖父であった。
「その為にも、私には“声”が必要だった。だからランキングに参加したの」
「なんとも壮大な話だね…。あ、さっきのトガワってのは、なんでVEGAを狙ってるの?」
「トガワは元々おじいさまの部下で、VEGAの共同開発者だったの。でも、5年前におじいさまが亡くなった直後、急にVEGAの権利を独り占めしようして…。だから私は開発途中のVEGAをココに隠して、一人で完成させるしかなかった…」
「そうだったんだ…ずっと一人だったんだね」
アヤトは、がらんどうの作業部屋を見回した。
壁に貼られた無数のメモや、キャビネットに押し込まれた試作機の数々、くしゃくしゃにして捨てられた大量の紙くずなどが、ユーコがたった一人でVEGAを完成させた人物であると物語っていた。アヤトはそのクリエイティビティ溢れる情熱に、シンパシーを感じずにはいられなかった。
こっち向いてとアヤトの袖を引っ張ったユーコが、真剣に語りかけてくる。
「アヤト。あなたには勇気がある。その勇気を、私とおじいさまの夢の為に貸してくれないかな?VEGAを、そしてクリエイティブを、みんなのものにするために…」
「そんな、オレは…ただのラッキーボーイで…」
ユーコはアヤトの両手を掴み、目を合わせたまま顔をグッと近付けた。
「お願い…!」
ユーコの真剣な眼差しとその距離感にドギマギして、思わず変な返事をしてしまう。
「はひィ!」
「ありがとう!」
ユーコが差し出すVEGAを、アヤトは恐る恐る手にした。
「あ、でもそれ、ピーキーすぎてあなたには無理かも…」
「ムッ…やれるさ!」

ユーコの夢:
祖父と夜空を見上げている幼いユーコ。二人の頭上にはこと座のベガが輝いている。祖父はユーコに優しく語りかける。
「わたしはね、それを手にしたみんなが、ベガみたいに輝けるようなPCを作りたいんだよ。でも、もう歳だからね…」
「ううん!ユーコが作る!ユーコがベガを作ってみんなを輝かせる!絶対に!」

「ユーコ、ユーコ!」
仮眠していたユーコは、アヤトにゆすり起こされた。
ベッドの枕元には祖父によるものと思われる『日本総創造者構想-project V-」
という褐色に変色した草案が置かれていた。
「大丈夫?うなされてたっぽいけど…」
「え、嘘…私なんか言ってた?」
「めっちゃ叫んでたよ。ユーコが作る!って…」
ボッ!と燃えるように赤面するユーコ。
次の瞬間、机の下に入って出て来なくなるユーコ。
「……穴があったら入りたい…」
「うっわ、めんどくせェェェ!!!!
つーか、もうすぐ作戦開始なんですけどォォ!!」
必死にユーコを机の下から出そうとするアヤトなのであった。

それは22時ジャストのことだった。突如CTシブヤのすべてのサイネージがブラックアウトした。街を歩く人々が一斉にどよめき出すと、次の瞬間、すべてのサイネージにユーコが映し出された。
「ユーコ?」
「あれ、ユーコだぞ!」
「本物だ!動いてる!」
「CREATOKYOのみんな、ユーコです」
アヤトは、一人カメラに向かって話すユーコを部屋に残し、CTシブヤを見渡せる雑居ビルの屋上から、VEGAですべてのサイネージをジャックしていた。
「やっべえ、CTシブヤまるごとボムっちまったぞ…!」
CTシブヤの若者らはサイネージに映ったトップランカーの独白に釘付けになっている。
「クリエイティブは、CREATOKYOだけのものじゃない」
VEGAを掲げるユーコ。
「このVEGAで、すべての人のクリエイティビティを解放する!」
その時、アヤトはHHの高級エアカー集団が猛スピードで雑居ビルに向かってくるのを見つけた。
「うわ!やっべえ!」
「すべての人に、VEGAを!」
出荷開始のボタンを押すユーコ。秘密で開発を進めてきた無人倉庫が稼働し始め、VEGAを載せた無数のドローンが次々と飛び立っていく。
大仕事を終え、安堵の表情を浮かべるユーコ。
カメラに向かっていたユーコの背後に、HHメンバーのジョーが忍び寄る。刃物のように鋭い名刺をユーコの首めがけ振り降ろさんとしたその時、間一髪で間に合ったアヤトが、似非パルクール仕込みのタックルで阻止した。
「アヤト!」
「下はダメだ!屋上に逃げるぞ!」
一方CTシブヤでは突如画面に映し出された惨劇一歩手前の出来事に、どよめきが起きていた。すると、画面いっぱいに大男の顔が映し出された。HHメンバーの轟だ。次の瞬間、「壊すでごわす!」と、目にも留まらぬ速さの頭突きでカメラを破壊してしまう。
雑居ビル屋上では、アヤトとユーコが、トガワと数名のHHメンバーに、追い詰められていた。
「よ、よ、よ、よくもぽっくんのスーツを汚してくれたなあ!」
高級スーツを汚され激昂したジョーが数枚の名刺を投げると、アヤトとユーコの奥にあった錆びた柵がいとも簡単に切断されてしまう。
「ヒイイイッ!!」
その切れ味に思わず悲鳴をあげるアヤト。
「少年!ユーコ!今すぐVEGAの出荷を止めるなら助けてやるぞ!」
低く響く声でトガワが叫ぶ。
ジョーが新しい名刺をリロードし、轟がドアを吹き飛ばして屋上にやってくる。
さらに、ジリジリと詰め寄ってくるHHメンバー。
絶体絶命と思われたその時、急に手を上げるユーコ。
「降参」
「は?なんで?」
「あなたをこれ以上巻き込むことはできない」
手を挙げたまま、トガワに向かって歩き出すユーコ。
「え、おい!」
「私は大丈夫だから」
アヤトに笑顔を見せるユーコ。心から笑っていないのは明らかだった。
トガワの方を見るユーコ。
「で、出荷をやめればいいわけーー」
アヤトがユーコの腕を掴んだ。
「え?」
「あのな…いっつも一人で抱え込んでんじゃねーよ…」
「アヤト?」
「オレらはもうクラウドだろうがッ!」
ユーコの技を真似て、VEGAでCTシブヤすべてのサイネージをショート寸前まで明るく発光させるアヤト。
辺りは閃光に包まれ、HHメンバーが思わず顔を逸らす。
アヤトはユーコの手を引っ張り、切断された柵の隙間目掛け全速で走り出す。
「ちょっ、え!?」
「ユーコ、飛ぶぞォォォ!!!」
「え、え、え〜!!!」
その勢いのままアジトビルから飛び出す二人。
「わあああああ〜ッ!!!」
CTシブヤの溢れんばかりのサイネージの光が、落下していく二人を照らす。
ユーコをしっかり抱きしめながらアヤトは大声で叫んだ。
「オレらはここだァァァ!!」
雑居ビルの下には、事前に集合のメッセージを送っておいた、シバやん他DRAWのメンバーが、ハタ坊製の巨大な旗を大きく広げて待っていた。凄まじいダミ声で叫ぶハタ坊。
「こんなシーンを、待ってたぜェェェ!!」
ボフッッ!!!!!!!
巨大な旗に落下する二人。
DRAWのメンバーと大勢の若者達に支えられ、二人は無事だった。
ユーコが旗から顔を上げると、CTシブヤの大勢の若者達が二人を囲んでいた。
「ユーコだ!」
「生きてるぞー!」
周囲を取り巻く群衆は、CTのトップランカーであり、VEGAを解放したヒロインでもあるユーコの言葉を、固睡を呑んで待っていた。
それを察したアヤトが、戸惑うユーコの背中を押した。
アヤトやDRAWメンバー達の方を振り返ったユーコ。
「大丈夫。オレらがいるから」
アヤトの言葉に、力強く頷くユーコ。
群衆に向き直ると、精一杯叫び始めた。
「ク、クリエイティブは、一部の人のものじゃない!」
VEGAを勢いよく両手で掲げるアヤト。
アヤトの右腕を掴み、ユーコはさらに叫んだ。
「クリエイティブを、すべての人に!」
「ウォオオオオオオ!!!!!」
その場にいた若者全員が大歓声をあげた。
その中には著名クラウドの筆吉一家や、Bézier (ベジェ)のメンバーの姿もあった。
シバやん、そしてDRAWのメンバーは、この胸熱過ぎる展開に号泣していた。
その横で、ハタ坊は「時は満ちたり!!」と巨大な旗をめっちゃ振っていた。
アヤトと顔を見合わせるユーコ。同タイミングでとびきりの笑顔になる。
その潤んだ瞳は、あの日のベガの様に輝いていた。

トガワは、雑居ビルの屋上で、アヤトが置き忘れたVEGAを手にしていた。
「ふ、火は灯されたか…」
そこへジョーが報告にやってきた。
「VEGAが全国に流通されはじめました。もう止められません…」
トガワは真下で行われている大団円を、穏やかな表情で眺めながらつぶやいた。
「まったく、あなたには敵わないですよ。博士」
ユーコの作業部屋に貼られた、『PC-8001』を作り上げた祖父と開発者たちの写真。
その中に、開発者である父親に連れて来られたであろう目つきの悪いトガワ少年が、ユーコの祖父のそばに立っていた。

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